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他山の石



先日、あるネットニュースの記事の中で「□□という功績のある〇〇さんは教育者の鏡だ」という表現を見かけました。おそらくこの文脈であれば「鑑」という字を使うのが適切だと思うのですが、校正がされていなかったのか、同じ文章を扱う立場としていささか残念な気持ちになってしまいました。

そう考えた時に、昨今の中学入試の国語の問題を見ていると、正しい日本語を問う出題が突出して増えているような印象を覚えます。例を2つ挙げましょう。

2024年普連土二回
問題四 
今、日本では、「ファミコン言葉」と言われる、ファミリーレストランやコンビニエンスストア等から広まったとされる、これまでの日本語から考えると不自然な表現が使われることがあります。
以下に挙げる①~⑤の「ファミコン言葉」が使われた文の――線部分を、( )内の状況に合わせて、より自然な表現に直しなさい。
①「八〇〇円ちょうど、お預かりします。」
 (レジで、八〇〇円の商品の代金を客から受け取ろうとしている店員の言葉。)
②「こちら本日の日替わりランチセットになります。」
 (ファミリーレストランで、注文された日替わりセットを運んできた店員の言葉。)
③「ご注文は以上でよろしかったでしょうか?」
 (ファミリーレストランで、注文されたすべての料理をテーブルに置いた店員の言葉。)
④「店内でお召し上がりですか?」
 (ファストフード店のレジで、注文しようとする客への店員の言葉。)
⑤「こちらでは、キャッシュレス決済をご利用できます。」
 (レジで客に支払いの説明をする店員の言葉。)

2025年慶應義塾中等部
【四】次のア~オの文が日本語の使い方として正しければ1を、間違っていれば2を記入しなさい。
ア 寸暇を惜しまず学問に励む。
イ あの人は忙しくてとりつく暇もない。
ウ 話が煮詰まってきて結論が出た。
エ 私にはこの仕事は役不足ですが精一杯頑張ります。
オ 彼は熱に浮かされたように研究に没頭した。

普連土学園の②、「〇〇になります」はついつい使ってしまいます。保護者会で受付をしているときに、「こちら本日の資料になります」と口走っていて、国語の先輩教師にたしなめられたことがあります。
慶應義塾中等部の出題は、よくテレビ番組でも取り上げられるような、一般的に誤用とされる表現をこれでもかと訊いてきています。この5つに加えて「雪辱を果たす」という表現(晴らすと混同されやすい)についての出題も他の学校で見られました。

このような出題からは、「言葉を正しく使えていますか?」という中学校のメッセージが感じられる気がします。実際の社会はコミュニケーションに満ちています。そんな社会において、正しい言葉遣いを知っていれば、相手の話を聞くうえでより本質をつかみやすくなるでしょうし、自分の考えも適切に他人に伝えられるはずですから、正しい語彙の蓄積は円滑なコミュニケーションに欠くべからざるものでしょう。周囲としっかり対話をして活躍できる人材を育てることが、教育機関の使命のひとつです。そこで、中学校側も受験生に対して「自分の話す言葉、世間に流布している表現に気を遣える人になってほしい!」という意図を入試問題に込めて、正しい言葉遣いを問うているのではないでしょうか。
“正しい”という表現を使いましたが、言葉は生き物で日々移り変わっていくものであって、今は誤用とされる表現も将来的に万人が使うようになれば誤用と見なされなくなる可能性は十分にあります。しかしながら、やはり間違いだらけの日本語を話すよりは正しい言葉遣いを私はしたいし、生徒たちにも自分の話す言葉に意識的になってほしいなと思います。

だから、冒頭のネットニュースの話は、他山の石としなければなと思います。
私も月に1回「みずなし・こばなし」を通して文章を発信する側ですし、塾内通信の執筆も担当しています。だから、生徒たちの手本となるべき私がまずは適切な言葉遣いをすることが肝要であろうと思います。

我々啓明館は教育に携わっていますが、その教育の大部分は「言葉」によって行われます。今一度、自らの使う言葉を振り返ってみる機会を作るのもいいかもしれませんね。