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ホーム > 目黒佳菜の啓明館日記 > 普通なやつ

普通なやつ



啓明館には「ほめほめカード」(通称ホメカ)と呼ばれるカードが存在する。

クレジットカード程度の大きさで、すべてのホメカに各教師の顔写真が載っている。
広報室が月替わりで素敵なデザインを考えてくれて、例えば2月はバレンタインをテーマにしたキュートなもの。4月は桜があしらわれた和風なデザイン。6月は紫陽花や梅雨を表現した絵であった。それに独自のアレンジを加える教師もいれば、まったくオリジナルのカードを作る教師もいて、感心させられる。

漢字で満点をゲットした時。素晴らしい「直しノート」を提出した時。授業中にユニークな発言をした時。
教師によって多少の違いはあるが、「よしよし」「よくやったぞ」と褒めてあげたい時にこのカードを渡す。

ホメカは色鮮やかなもの、可愛いデザインのもの、くすっと笑えるものなど、どれも素敵だ。
でも大人の目から見ると決して集めたいと思うのものではない。しかし子どもたちにとっては思わずガッツポーズをしながら受け取ってしまうほど、大切なものらしい。
ダブリカードを友だちと交換して、コレクションを増やしている生徒も少なくないという。
先日も「先生、今日もイケメンだね」「先生、今日もお綺麗で」なんて見え透いたお世辞を言いながら、ハイっ(カード、ヨロシク!)と右手を差し出している生徒を見かけた。こんな不毛な世渡りとは無縁なはずのピュアな啓明館っ子たちが、どんな手を使ってでも手に入れたいもの、それがホメカなのである。


先日、ある生徒が自身の「ホメカポーチ」を整理していた。その様子を見ていると、ホメカが輪ゴムでグループ分けされていて、各束に「お姉ちゃんの」「レアなもの」「大切」など手書きの札がついていた。

彼女に話を聞いてみると、授業でホメカを受け取った直後に、各グループに振り分けて保管をしているそうだ。
「レアなもの」の束にはゴールドやシルバーの用紙で印刷されたホメカ、夏期講習スペシャルホメカ、などが含まれていた。
「大切なもの」の束には、難問に正解できた時にもらったホメカ、小テストでクラス1位の得点を獲得した時にゲットしたホメカ、筆記用具を忘れた友人にさっと鉛筆を貸した時にもらったホメカなどを入れていた。

「これはどんな時にもらったの?」と質問をしていくと、ふだん決してお喋りではない彼女が、キラキラとした目でたくさんお話をしてくれた。
この時、やはり子どもたちは褒められること・認められることが嬉しくて嬉しくて、だからこそ、その対価として得られるホメカを宝物のようにして思ってくれているのだと改めて痛感した。

中学入試当日、試験会場に向かう電車のなかで、ケースに整理したカードをずっと眺めていた受験生もいるそうだ。きっと彼らは、これまでに教わった教師の笑顔や、褒められたり認められたりした時の気持ちを思い出しながら、不安を断ち切り、本番に向けての鋭気を養っていたに違いない。そんな素敵な力がカードに宿るのなら、私もちょっとアレンジしたレアカードを作ってみようかなという気持ちになる。


ちなみに彼女のホメカの中に「普通なやつ」という札がついた束もあった。
これに関しては、そっとしておくことにした。
その束の中に、私のホメカがたくさん入っていたらなんとなく傷ついてしまいそうという防衛本能が働いたのは、ここだけの話…