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ホーム > 塾長 後藤卓也のつぶやき > 寮生活の意味を考えてみよう(4)函嶺白百合

寮生活の意味を考えてみよう(4)函嶺白百合



函嶺白百合の女子寮見学、「週末は家に」がルール

シリーズ「寮生活の意味を考えてみよう」では、これまで男子寮のある学校を取り上げてきましたが、これでは不公平(?)かなと思って、7月にカトリック女子校の函嶺かんれい白百合学園を訪問しました。神奈川県箱根町の箱根登山鉄道「強羅駅」すぐ近くに、東京の白百合学園の「疎開学校」として、戦時中の1944年に設立された1学年40人弱の小さな学校です。大半が併設小学校から進学してくる生徒ですが、40人収容の女子寮「マリア寮」もあります。

「マリア寮」は、原則として金曜の授業後に自宅か親戚の家に帰り、日曜の夕方までに寮に戻るという、ちょっと変わった寮です。函嶺白百合に勤務されている柳宣宏先生が、湘南白百合(神奈川県藤沢市)の広報部長だった頃にお世話になった縁があり、お陰で「男子禁制」の女子寮の中まで見学させていただいた上に、生徒たちの生の声も聞くことができました。寮生たちは、見ず知らずのオジサンにいきなり話しかけられても、「期末試験が終わったので、これから新宿まで帰るんですよ。遠くてタイヘンです」などと、笑顔で気さくに答えてくれました。

寮生活の中2女子、「自分で考え行動」で頼もしく

私たちの塾「啓明舎」の塾生だったA君(函館ラ・サール)の妹Kさんも、姉妹校である函館白百合の中学2年生です(「兄ラサ」という用語があるくらい、兄妹そろって北海道の函館という家庭は多いそうです)。この兄妹とご両親とランチをしながら、話を聞くことができました。Kさんも塾の卒業生ですが、私は去年から新宿校に勤務しているため、小石川校だった彼女とはほぼ初対面。しかも「両親+兄ラサ+塾長」という圧迫面接(?)みたいな状況下なのに、まっすぐに私の目を見ながら、はきはきとした声で、学校生活と寮生活の様子、そして「母校愛」を熱弁してくれました。

小学生の頃のKさんは人付き合いが苦手で、成績も振るわず、とにかく自分に自信が持てない子だったそうです。でも、「寮では何でも自分でやらなければならないので、できるだけ自分で考えて行動するようにしたら、先生や寮の仲間が私のことを頼ってくれるようになって、それがすごくうれしかった」そうです。

塾の卒業生たちは、同じ学校の仲間同士でよく塾に遊びに来てくれるのですが、学校生活の様子を聞いても、「学校、チョー楽しいです」「運動会とかヤバいよね」「あれはヤバすぎ~」みたいな感じで、結局、内輪同士のおしゃべりに終始して、話が要領を得ないことがあります。

同じような家庭環境に育ち、同じ塾で学び、同じ学校に進学した仲間や先輩がいる。だから楽しい。それはそれで幸せなこと。でもKさんは、たった一人で東京から遠く離れた地に赴き、日本各地から集まった、成育環境や言葉遣いも異なる生徒たちの中で、自分で自分の「居場所」を見つけることができた。それが彼女を大きく成長させるきっかけになったのでしょう。

寮で身に付く学習習慣、夜はみんな無言で集中

寮生活のメリットは、第一に「生活・学習の習慣が身に付くこと」です。函嶺白百合では、夜の「義務学習」は2時間。そのあとも中学生は深夜11時、高校生は12時までが自習時間となっています。

 「マリア寮」の学習室は、15席ずつ向かい合わせになる形で、机と椅子が配置されています。寮生全員がそこで2時間ずっと「無言」で学習します。寮の指導を担当する寮監の山口栄子先生は、「私は毎晩、見守り役として同席するのですが、あまりに静かなのでついウトウトすると、必ず向かい側の席の生徒から『先生、居眠りしてたでしょ』と言われるんですよ」とこぼしていましたが、私も2時間の沈黙にはとても耐えられそうにありません。

先日、「啓明舎」の小石川校で初めて実施した「海陽学園ミニ説明会」は、教室が満席になるほどの大盛況でした。海陽学園は、このシリーズ「寮生活の意味を考えてみよう」の1回目で紹介した愛知県にある全寮制の男子中高一貫校です。「中高生を指導する教師の一番の悩みは家庭学習。最近の調査結果では、高校1年生の家庭学習は平均1時間を切りました。どれだけ学校で指導しても、家でテレビやスマホ三昧では学力は身に付きません」と、寮生活の意義を力説する海陽学園の近松貴史先生の言葉に、保護者はみな「我が意を得たり」と大きくうなずいていました。

学校帰りに塾や予備校に通ったり、「ちゃんと宿題やったの?」「うるせ~な」というバトルを家で毎晩繰り広げたりするより、寮のほうが効率よく、集中して勉強できるのは当然です。もちろん厳しいルールや罰則もありますが、「仲間や先輩たちがやっているから、自分もやる」という雰囲気が大切だと思います。

助け求め感謝伝える、集団生活で育つ「対人関係力」

寮生活で得られるのは学習習慣だけではありません。「啓明舎新宿校」を今年卒業した女子の教え子13人のうち、「今まで一度も皿洗いをしたことがない」という子が2人いて、びっくりしました。数年前に、「たまには弁当箱くらい自分で洗って、お母さんに感謝の気持ちを伝えなさい」と言ったら、「ウチ、食洗機」と余計なツッコミを入れて私の逆鱗げきりんに触れた女子もいました。

他方で、函館ラ・サールのA君に、シリーズ「寮生活の意味を考えてみよう」函ラサ編の私の下原稿を読んでもらったところ、「後藤先生の文章に口出しなんて恐れ多いけど、強いて言うなら、(寮の生活指導をする)寮教諭以外にも、洗濯や食事などを全面的にサポートしてくれる人たちがいることを、しっかり強調して書いてほしい」というコメントが返ってきました。

寮では、配膳、掃除、ベッドメイクなど、自分のことは自分でやる。うまくいかないことがあれば、ちゃんと言葉で周りの人に伝え、手助けしてもらう。そして、自分でできないこと(食事の支度など)に関しては、自分たちの生活を支えてくれている人たちに感謝の気持ちを持つようになる。

ところが、ママがいれば、なんでもママがやってくれる。「ママ、これ」というだけで、何をしてほしいかを察してくれる。汚れた体操服や弁当箱は、洗濯機や食洗機が自動的に洗ってくれる(わけないだろう?)。これでは、いつまでたっても対人関係力は育たないし、集団生活に適応できるようにはなりません。

まず、ママも一人の人間(他者)であり、ママにはママの事情、ママの人生があることを知る。ちゃんと言葉にしなければ、ママだって自分の気持ちを理解してはくれないし、まして他の人に伝わるはずがないということを理解する。人はみなそれぞれの考え方や感じ方をする存在なのだから、それを伝え合い、認め合うための努力をしなければ、いっしょに生活することなんてできないということを、身をもって知る。

それが思春期初期の最大の発達課題であり、寮生活を通して得ることができる一番の宝物だと思います。「寮の出身者は就活のときに圧倒的に有利」という話もあちこちで聞きました。私も採用面接や新人研修の経験が少なくないので、よく分かります。

離れて気付く親子の絆、帰省時の成長に目を細める

卒塾生のママと話をすると、「親の言うことを聞かない」「勉強しない」という愚痴ばかり聞かされますが、寮生活をしている子のママはほぼ例外なく、スマホで「寮の友だちと肩を組んだ笑顔のスナップショット」や「きちんと整理された自室をバックにしたピースポーズ」の写真を見せながら、「おかげさまでこんなに元気に過ごしています」と我が子自慢をしてくれます。一方、寮訪問で出会った教え子たちはみな、「やっぱりお母さんの作ってくれる食事が一番」「洗濯や掃除の大変さが分かりました」と語っていました。

小学生時代に親子バトルを繰り広げていた家族も、子供が休暇で東京に帰ってくると、「ついつい一緒に旅行に行ったり、ごちそうを食べに行ったりするので、普段より出費が多くて大変です」と、ママがぼやいたりしています。離れて暮らすからこそ、親の愛を知り、我が子の成長に目を細め、親子で過ごせる時間を満喫できるのだと思います。もちろん、本当は親子それぞれにつらい思いや寂しい思いもしているのかも知れませんが。

他方で、寮のある学校がどこも生徒募集や学校経営に苦労し、「お受験マスコミ」の酷評やネット上の風評被害などに頭を悩ませていることも知っています。でも、寮生活を送る10人以上の塾の教え子たちの成長ぶりと、保護者の声を実際に取材した私は「一度は寮生活という選択肢を真剣に検討してみてください」と、保護者会で呼びかけ続けました。そのかいあってか、来年も予想した以上に多くの保護者が、寮のある学校の説明会に足を運び、受験することになりそうです。

取材に協力していただいた学校の先生方、そして卒塾生や保護者の皆さんに、一人でも多くのかわいい塾の後輩たちを送り出すことで、感謝の気持ちをお伝えしたいと願っています。(シリーズ「寮生活の意味を考えてみよう」は今回で終わり)
(中学受験サポート2019年12月)